前月に引き続き、2020年7月刊行のガイドブック「東京起点沢登りルート100」に新載された葛野川水系にある大菩薩の沢に行ってきました。
今回は奈良子川(地形図での表記は小俣川)支流のニカイ谷です。
奈良子川の流域には、猿橋から小菅村へと続く国道139号線の途中にある奈良子バス停付近から(猿橋側から行くと)左折して入りますが、その分岐は猿橋・大月各駅周辺から3kmほどで、クルマで10分もかからない距離にあり、とても近いです。
また、国道から分岐した後も、林道含めて全面舗装で、林道入り口までは乗用車なら普通にすれ違える立派な道路が続き、首都圏からは中央道が渋滞していなければ2時間足らずで付近まで到着することができる、交通至便の位置にありました。
ただ、入渓地である二階橋の1kmほど手前。矢竹の最終人家の500mくらい先で林道が通行止めとなっており、10分少々林道を歩いてからの入渓となります。
また、通行止めのすぐ手前には、クルマがUターンできる広場があり、路肩にも数台の駐車が可能でしたので、通行止めの看板から歩き始めます。
歩き始めるとすぐに、左手前方に見える林道の先の路側にブルーシートが張ってあるのが目に入ります。
おそらく、あそこが通行止めの理由と推測されます。
ちなみに、この林道は、ここから2kmほど先にあるゲートまでの区間は、このブルーシートの場所も含めてクルマが問題なく走行できる路面状態でした。
入渓地である、歩き始めて2つ目の橋、「二階谷橋」に到着です。
ちなみに、1つ目の橋は「山椒沢橋」でした。
先ずは、そのトラロープに向かって、砂防ネットと腐った別のトラロープが残る斜面を降りて行きます。
ちなみに、トラロープは10m弱のものが3ピッチ張られており、上下の2ピッチは腐っています。
ロープなしでも降りられないことはありませんが、お助けヒモがあった方が無難でしょう。
真ん中のトラロープだけが、何故か新しいです。
トラロープ沿いに下ると、堰堤の上に降り立ちます。
川原へは堰堤の脇から簡単に降りることができるので、広い川原で沢支度します。
何故かボロボロのブルーシートが置いてあり、両脇は土砂がテラス状になっているので、ぱっと見たときは道路でも工事しているのかと思いましたが、人工物はブルーシートだけで、道路のように見えたのは、かつてここが土砂で一旦埋め尽くされた後で、流れ周辺の部分のみが再度削られた名残の様です。
ここにも短いトラロープが張ってありました。
この沢の前半部の滝が多いところには、各所にロープが設置されています。
今日は誰にも会わなかったのですが、釣師の入渓が多いのでしょうか。
河床の幅は広いものの、両側は高くて急な崖が多く、先ほど入渓した場所以外から谷に下りようとすると、結構長いロープが必要な様に感じました。
続くこの淵は左岸側が普通の川原となっています。
ほんの少しの間、何もない平凡な川原が続きますが、
入渓から300mほど先にある標高740m右岸枝沢出合から、正面の本流は狭くなってきます。
そして、間もなく4mの直滝がでてきます。
深い釜を持つこの滝の左側には、ロープが2カ所に設置されているのが見えます。
ほんの少しの間、何もない平凡な川原が続きますが、
先ずは下の方のトラロープに向かって、釜の左端を行きます。
そして更に、落ち口付近には根元がクサリとなっているもう一つのロープが設置されていました。
少々水に浸かって釜の中を行くと、特にトラロープの助けを借りることもなく滝壺から出ることができました。
滝の左側の壁を登りますが、ご覧の通りホールド、スタンスとも豊富です。
クサリを使わなくとも登れます(ボルダー7級くらい?)が、せっかくなのでありがたく使わせていただきました。
次に見えてくるのは、似たような外観の3m滝です。
この滝も左側にトラロープが付いていますが、先ほどと違って、落ち口付近には何も見えません。
先ずはこの釜水面近くにあるトラロープ目指して腰くらいの水深を行きます。
このトラロープは、釜から這い上がるときに重宝しました。
この滝も側面のホールドは豊富です。
が、最後に目線がちょうど落ち口の高さとなったところ…ちょうど下の写真のように次の釜が目の高さに見えるところ…で、階段のようなスタンスが途切れ、ヌメってのっぺりしたものだけとなります。
ですので、どこから巻くかの判断となるのですが、滝の左岸すぐ上にトラロープのようなものが目に入ります。
確かに人工物みたいですが、あのヒモを掴めるところまではどうやって行けばよいのでしょうか?
今立っているところから直接行けるような気がしないのですが...
なにはともあれ、振り返ると左岸側から張り出しているこの小尾根を登っていくことにします。
小尾根の上には踏み跡らしきものがあり、先ほどの滝を見下ろしながらぐいぐい登っていきます。
途中で滝の落ち口の位置へと向かっていく段差のようなものが目に入りますが、確実に滝まで行ける確証が得られず、その一方でこのまま登っていくと作業径があることが分かっているため、無視してどんどん登ります。
振り返った右手にも、倒木はあるものの明瞭な作業径が続いています。
標高差にして数十メートル登ると、明瞭な作業径に到着しました。
左手の上流側に進んで滝を巻いて行きます。
結果的にここが本日の気になるポイントとなりました。
もしも右手の作業径がこのまま同じ方向に山の斜面を辿っていくのであれば、1km足らずで先ほどまで歩いていた林道に着くはずだと考えるようになるのは、もう少し後になってからのことです。
そこまで考えが及ばない今は、立派な径を上流側へと歩いて行きます。
快適に歩いていると、前方にこの径の目的と思われる植林が見えてきました。
そして左側は、緩い斜面が沢まで続いているので、沢へと戻ることにします。
上流側には滝のようなものも見えます。
簡単に沢に降り立つことができたので、遡行を開始すると、
倒木の滝のすぐ右岸側を作業径の残骸のようなものが通っていたので、そこへと這い上がって巻くこととします。
巻いた跡も径跡らしきものは続いていましたが、流れの近くの方が歩きやすそうだったので、すぐに川原に下りて進みます。
そしてそこからは、一か所を除いて平凡な川原の連続となりました。
すぐに先ほど下っているときに見えていた3mの滝となりますが、左側に倒木が架かるこの滝は、明らかにこの沢の最上流に位置する滝で、トポには先ほど巻いた二連の滝とこことの間には3連の滝があると書いてあります。
どうやら、歩きやすい径を調子こいて歩いている間に、3連の滝も一緒に巻いてしまったみたいです。
戻って遡行しなおそうかとも一瞬考えましたが、なんとなく惰性でそのまま遡行を続けることにしました。
沢底は倒木で埋まり、崩れた斜面の中に何者かが通過したように見える薄い踏み跡が続きます。
息を殺しながら、冷や冷やして通過。
そして、その後も平凡な川原が続きます。
帰ってから検索してみたところ、この土砂崩れは2019年晩秋に遡行された方(渓人「流」さん)の記録には記載されていませんでしたので、割と最近発生したものかも知れません。
土砂崩れの中央部から見上げると結構な圧迫感です。
このあたりから、さきほど二連の滝を巻いて以降は、土砂崩れの危険こそあれども、さしたるものがない平凡な沢が続くだけだという実感が身に染みてくるようになります。
ちなみにここは、対岸にこの小沢が合わさっているので、簡単に場所が特定できると思います。
そして間もなく、950mの右岸枝沢に到着しました。
ここを左側に入って帰路につきます。
ああでも今は、この枝沢を登るとさっきの作業径がでてきて、楽に帰れるんじゃないかみたいな発想になってしまいます。
たとえ作業径があったところで、崩落から先へ進めるはずもなく、いまさらそんなことは止めておくに越したことなないのはわかり切っていますので、ガイドブック通り行きますが....
右岸の枝沢に入るとすぐに小滝がありますが、簡単に脇を通過できます。
出合から標高50mほど登ると出てくるこの二股は右へと入りました。
この先しばらくは障害物の多い沢底よりも、左岸の植林の中の方が歩きやすいので、概ね沢に沿いながら植林の平坦なところを歩きます。
できれば(地形図では緩やかに見える)左岸尾根まで登ってしまいたかったのですが、そこまでの植林の中が結構な急傾斜なのとガスで見通しが利かないのとで、結局沢を詰めることになりました。
地形図で1090mの二俣状に見えるところは、左俣の地形が平坦ではっきりしないのですが、傾斜がユルそうなので左手へと進みます。
やがて斜面に転がる石が一面コケに覆われるようになると、
小さな岩があるので、右側から巻いて「用グラツリ尾根」の上を通る送電線の巡視路にでます。
巡視路はよく整備された立派な径で、ガイドブックでは左側へとナラ立(1206m標点)経由で下山すると書かれていますが、今日はちょっと逆方向へと寄り道して帰ることにします。
用グラツリ尾根を西へと向かう巡視路は、1252m標点の南側を巻いて舗装された林道のヘアピンカーブにでます。
尾根に乗ってから歩く距離は300mほどでしょうか。
ちょうど下の写真のカーブミラーの奥から出てきます。
この舗装された林道は、往路で二階沢橋まで歩いた延長上にあり、右へ行くと奈良子川(小俣川)の本流である本沢の源流域を大きく周回して姥子山の横をかすめ、大峠へと向かう真木小金沢林道の途中に合流します。
今回は奈良子方面に戻るため左へと下ります。
下っていく方の林道は、1kmほど先の標高1170mにある4本の沢の合流点で本沢を渡り、Uターンして本沢沿いに奈良子へと下っていきます。
その合流点の資材置き場の横を林道と同じ高さで渡る3本目の沢の流れで沢装備を洗いながら解除します。
そして4本目の沢を渡る橋の向こう側に、ちょうど写真の林班標看板の横から、ひっそりと踏み跡が登っていきます。
ちなみに、1本目と2本目の沢は最初に大きな橋で一括して渡ります。
崩れた跡には、何者かが通過したと思われる薄い踏み跡がついていたので、それを辿って恐る恐る崩壊地を渡ります。
崩壊地を過ぎると、すぐに高圧線の鉄塔の下に着きました。
1327m標点はここよりも少し左上にある様ですが、そこには寄らずに、そのまま鉄塔の横を通過して更に西へと登っていきます。
鉄塔から先の踏み跡は、時に薄くなり、藪やクモの巣が架かったりしますが、尾根上をほぼ忠実に辿り、山頂手前で突如神社の前にでます。
神社の先をほんの少し登ると、そこは姥子山(東峰)の山頂でした。
山頂付近が急登で周囲に高いところが無いことから、たぶん好展望の山だと思われますが、今日の天気ではそれが全く想像できません。
好天の日に来るべきとろなのでしょうが、立地的にここだけを目的として出かけることは無いような気がして、この機会に寄ってみましたが、なかなかワイルドな道程でした。
姥子山西峰の横を通る舗装された林道(さきほど用グラツリ尾根から出て来た林道を反対側へと言った先ですね)を少々下り、
この分岐から百間干場・金山峠方面へと登山道を下ります。
登山道は急坂を順調に下り、右手から大きくなってくる沢音に引かれて沢沿いの林道に降り立ちます。
崩壊が進む沢沿いの荒れた林道を下っていきます。
百閒干場では登山道が分かれて金山峠へと登っていきますが、クルマに戻るために引き続き林道を下っていきます。
引き続き沢沿いに下っていく林道は、登山用の標識も朽ち果て、一層荒れてきた路面に見える足跡は動物のものばかりとなります。
それでも990m付近で沢を渡り、隣の沢沿いに乗換えるところからは、四駆ならば通行可能な状態となり、沿道には植林地も広がるようになってきました。
925mくらいのプレハブ作業小屋が建つところで本沢沿いを下ってくる林道と合流し、さらに1kmほど行ったこのゲートの向こうで本沢を渡り、往路へと続いて行きます。
7時間ぶりに二階谷橋を渡ります。
お疲れさまでした。
●本日の反省
・何をしたのか/何がしたかったのかがよくわからなかった。 沢登りに出かけたはずが、終わってみると、その後の低山徘徊?の時間の方が長かった。
その沢登りも、遡行よりもツメの方が長く…というか、遡行とツメの境界がどこなのか記憶に残らず、そのようなイメージだけが残ったのだと思うのだが…感じられたのは、たぶん気のせいかもしれない。
大菩薩なのか、中央線沿線の山なのかがよくわからないこの山域に初めて足を踏み入れましたが、山で働く人々の痕跡を各所で感じた一方で、登山者とは一人も会わずに静かな山旅を味わうことができました。(実際に出会ったのは造林作業の軽トラと重機を搬送するトラックのみで、いずれも林道奈良子線の上でした)
道中で見かけた数々の作業径も、丹沢や奥多摩であればWEB上に記録が載り、出版されている地図にも記載されているところですが、楢ノ木尾根周辺の一部の尾根上のもの以外は知られることもなく、ひっそりと森の中に眠っています。
人里に近いのに不思議なのか、近いからそうなるのかはわかりませんが、普段は意識することなく通り過ぎてしまう場所にある、独特な雰囲気を持つ山域に気付きました。