長野県駒ヶ根市内を横断して天竜川に注ぐ太田切川の支流の中御所谷のそのまた支流、横川の西俣となる西横川は、初級者でも登れるダイナミックな良渓ですが、長い間なかなか足が向きませんでした。
その理由は、入渓地が行楽シーズンに大混雑する中央アルプス駒ヶ岳ロープウェイの駅のすぐそばにあることによります。
ロープウェイ山麓側の「しらび平駅」までは一般車両通行禁止で、駒ケ根I.C.近くの「菅の台」から路線バスで行かなくてはならず、帰路もそのロープウェイの待ち時間が長く、下山時間が読めない特殊な立地がスタートとゴールとなります。
「菅の台」の行楽シーズンの路線バス始発は5:00頃とのことですが、さすがに徹夜はしたくないので、早朝の6:00頃に到着してみると、バス停は既に長蛇の列です。
駐車料金¥800を払い、慌てて切符売り場で往復のバス乗車券を購入し、列に並びます。
バスは臨時便が順次やってきて、次々と乗客を乗せますが、それでも一時間待ちでした。
バスに並ぶ間も、ロープウェイの時間待ちが始まり整理券を配っているという情報が入ります。

バスに揺られること約30分で、ロープウェイのしらび平駅に到着します。
ここからは駅舎に背を向けて、バスが登って来た道を一旦引き返します。
舗装道路を2分ほど歩いて到着する「しらび橋」の下を流れるのが横川で、この橋の下流数百メートルのところで中御所谷と合流しています。
橋の上流側左岸の明瞭な踏み跡で沢に降ります。
橋の目の前の堰堤は右岸側から巻きます。
最初の堰堤を登ったすぐのところで、しらび橋を見ながら入渓準備をします。
目の前には2基目の堰堤があり、これは左岸の踏み跡から巻きます。
2基目の堰堤の上はすぐに二俣となっており、東西横川が出合っています。
こちらは右俣の東横川。
奥の方に20mくらいの壮大なナメ滝が見えます。
思わず惹かれてしまいますが、遠目から見ても逆相気味で傾斜もあり、とても一人で行けそうにありません。
なので、予定通り小さめのナメ滝ではじまる西横川へと入ります。
でだしは多少ナメがあるものの、基本的には大雑把なゴーロです。
ところどころ大岩を這いつくばりながら登っていきます。
標高差にして50mほど登ると、はっきりしたナメ滝が続くようになります。
どれも流れのすぐ脇か横の岩盤を登っていくことができます。
ここはたしか左の斜上テラスを歩いたかな。
水線沿いに快適に歩いて行けます。
岩盤は手で触るとヌメるものの、フェルトソールのシューズは意外と滑りません。
この写真の上の滝の奥に見える崩れたようなところが1900m付近の地形図の左岸岩壁マークがゆるく左に曲がるあたりでしょうか。
間もなく30m大滝が見えてきます。
左カーブを曲がると、大岩が転がる先に大滝が見えました。
大滝の前には登れない5m滝が立ちはだかりますが、
左岸にある平坦な岩盤と草の境目を通って巻きます。
そして、堂々とした30m大滝の釜に到着です。
少し角度を変えてもう一枚。
滝のすぐ左側の岩壁を登って越えていきます。
岩登りとしては非常にユルい傾斜をぐいぐい登ります。
途中の岩の隙間に生えているブッシュの中には黄色い花も咲いており、心がなごみます。
ホールド・スタンスは豊富で、落ち口に近づくにつれて徐々に傾斜も緩くなりますが、基本的に一旦滑ると止まりませんので、慎重にいきましょう。
大滝の落ち口まで上がると、そのすぐ上はナメ滝が続きます。
引き続き左側の岩壁を登ります。
左壁が登り切れなくなったところで、流れの中に切り込み、軽くシャワーを浴びて滝の上に立つと、、、
その上は標高1975mの二俣となっていました。
右俣に入るべく、中央のブッシュの中の踏み跡を辿ります。
右俣を見下ろしながら流れに近づくと、その先から標高差300m近く続くナメ滝の連続帯が始まります。
先ずはこの滝から。
流れの中を十分行けそうですが、見た目なんとなくヌメるように感じたので、左の岩を登ります。
引き続き、その上の滝も左側を登っていきます。
このあたりからは、流れの中をひたひたと登ります。
次は右のユルいところを登り、落ち口のヒョングっているところは右のブッシュから軽く巻きます。
ブッシュにはアザミが混ざっていて少しチクチクします。
この沢は全体を通してアザミが生息しており、鬱陶しいほどではありませんが、ときどきチクチクします。
そしてセンキュウのようなボウフウのようでもあるこんな花もたくさん咲いています。
どんどん登ります。
このナメ滝だけは、フリーで登るのが少々躊躇されました。
なので、左側にあるこのルンゼを登って、上部の草付きから沢へと戻りました。
このチョックストーン様の岩は右の細い水流をマントル気味に登ったような気がします。
一気に高度を上げてきましたが、まだまだ続きます。
徐々に水流が細くなってくると両岸の岩盤が少なくなり、流れの脇までブッシュで覆われるようになります。
ブッシュの中に咲くのはヤマハハコでしょうか。
2210mで左岸から沢が流入します。
そして、この急流を登ると、
視界が開けて奥の方に2290m二俣が見えます。
2290m二俣の左股は、最後の難所となる30mのナメ滝が落ちてきています。
岩塔基部にあたる左端の水流がないところから取りつきます。
登っていくと最後にこの5mくらいの小滝となって終わりますが、ここがこの沢の最後にして唯一の難所と呼ばれるところみたいです。
左側の草付き近くの傾斜が一番緩いように見えるので、近づいてみます。
手で触ってみると、確かにヌメりますが、それよりも振り返ってみたときの、下まで遮るものの無い景観がプレッシャーとなります。
うぅ~ん。
右の方はどうかな。
細い水流を浴びますが、ちょうど上に立てる台形の岩があります。
あの上に乗ってみましょう。
こちらは、万一の時にも何かに引っ掛かりそうですね。
思い切ってワンムーブ試してみると、手ではヌメるものの、フェルト底は意外とグリップが効いて、越えることができました。
登り切って、景色を眺めながら一息つきます。
伊那谷の向こうに南アルプスを望む壮観です。(南アルプスはこのあとちょくちょく見ることになります)
あとは、長谷部新道目指してツメを一気に登っていきます。
最後の滝は左の草付きとの境界線を登ります。
(右からもいけそうです)
振り返ると、先ほどの岩塔が早くもかなり下に見えます。
この岩のギャップを右奥のチョックストーン様のところから超えると、突如水が枯れてしまいました。
しまった。降りるのも面倒なので、先へと進みます。
千畳敷まで行けば自販機あるしね。
結果論ですが、長谷部新道でも水流を3回横切ったので、特に水には不自由しませんでした。
水が枯れると、足元は花で覆われます。
一番たくさんあって目立つのは、このヤマトリカブト。
オタカラコウの様にも見えますが、匂いがしないので、キオンですかね。
なんだろう?
そうこうしているうちに、トラロープがでてきて長谷部新道に到着しました。
左右を見回すと岩壁をトラバースする桟道の残骸が目に入ります。
ただ、注意していないとトラロープとこの赤テープに気づかない限りは通り過ぎてしまいそうです。
ここで沢装備を解除し、長谷部新道を西へと進みます。
長谷部新道は急峻な斜面に微かに残る踏み跡でした。
雲海を見下ろしながら千畳敷を目指します。
尾根近くにでるとロープウェイ駅が見えるようになります。
駅が見えるところに到達するたびに徐々に千畳敷が見晴らせるようになってきます。
ここは3回目くらいのビューポイントで、絶景が広がります。
それと同時に下りロープウェイの順番待ち整理券を呼び出すアナウンスも徐々に大きく聞こえるようになります。

そして、気が焦ったためか、千畳敷を目前とした観光客の歓声が聞こえるところで、何と藪に埋まる登山道をロストしてしまいました。
十分少々のブッシュ漕ぎをして、ようやく通行止め手前側の新道に出ました。
観光客で大賑わいの千畳敷は目と鼻の先です。
さて、先ほどから聞こえる駅のアナウンスによると、下りのロープウェイは2時間待ちに迫ろうとしています。
周囲には、そのロープウェイを待っていると思われる人々が何人か腰を下ろしているのが見受けられます。
ここで2時間も待っているのも何なので、あの稜線の低いところ目指していっちょいってみるか。
行列のように連なる登山客に紛れて、ぞろぞろと登っていきます。
稜線にでると、百名山の木曽駒ヶ岳は結構近くに見えます。
せっかくなので登っておきましょう。
人の列に従い登山道を歩いて中岳まで来ました。
乗越浄土にでてから15分くらいでしょうか。
目指す木曽駒ヶ岳は隣の丘です。
足元の岩間に咲く花を見ながら山頂へと向かいます。
それにしても高い山に咲く花は普段見慣れないせいか、全然名前がわかりませんね。
歩いてきた道を振り返ります。
もうすぐ山頂。
憩う老若男女で一杯です。
さて、混雑が引けたロープウェイに乗るべく引き返しましょう。
帰り道で宝剣山荘からちょっと寄り道。
宝剣山荘側から見た感じほど急なところはなく、山頂直下でちょっとクサリ場がある程度でした。
こんな感じでみんな登ってきます。
宝剣岳よりロープウェイ駅を見下ろすと、駅の周辺はまだまだロープウェイを待つ人で一杯です。
雲がかかる南側のカール縁
こっちは反対側の伊那前岳方面の展望です。
さて、それでは帰ることにします。
宝剣山荘付近から振り返る宝剣岳。
カールを下っていきます。
午後4時過ぎに到着したロープウェイは、まだ2時間待ちでした。
整理券を受け取って、カールと周囲の山々をのんびり眺めながら時間をつぶします。
千畳敷が徐々に暮れ行くと、
日没とともに東側の空が晴れ渡り、伊那谷の向こうの雲海上に南アルプスが照らしだされました。
空っぽのロープウェイが登って来て、登山客を満載して降りていきます。
公式な運行終了時刻の午後5時までに整理券を受け取れば、臨時便を運航し続けてちゃんと下ろしてくれます。
遠く富士山がとっぷり闇に消えるころ、下りのロープウェイに乗って下山しました。

●本日の反省
予想通り、いや、予想以上の大混雑だった。
但し、思惑とは違っていたものの、結果バスを待つ間に気温が上昇して沢登りには最適な時間に登ることができたし、十分早い時刻に遡行を終えることができた。
帰りのロープウェイは待たされたものの、日没前後の良い時間帯を山上で過ごすことができた。
そのまま明るいうちに下山していたらたぶん味気ないものとなっていたかもしれない。
ただ、麓の温泉(こまくさの湯)の受付時間は20:00まで(入浴は21:00)なので、逃さないよう注意。
2019年9月15日(日)
菅の台BC(7:15)-(バス)→しらび平駅(7:50)→しらび橋(7:52)
→横川遡行→東横川出合(8:20)→(西横川遡行)
→30m大滝(9:10)→1975m二俣(9:50)
→2210m二俣(10:45)→2290m二俣(11:00)
→長谷部真道(12:00)→千畳敷(13:10)
→木曽駒ヶ岳(14:30)→宝剣岳(15:20)
→乗越浄土(15:45)→千畳敷駅(16:15~18:20)
→しらび平駅(18:30)→(バス)→菅の台BC(19:05)