2020年7月に山と渓谷社から発刊された「新版 東京起点沢登りルート100」には、桂川の支流、葛野川水系の沢が新たにたくさん掲載されました。
中央道の上野原I.C.から一時間ほどで行けるこの山域は、神奈川県北部の住民にとって大変便利なので、ひとつ行ってみることにしましょう。
先ずは最北を流れる支流の土室川のそのまた支流のどれかから選択しようと思いますが、どの沢も検索しても全く情報が出てきません。
ガイドブックの情報だけでは不安だと感じていたときに、ちょうどシンケイタキ沢の遡行記録をアップされた方がいたので、大変心強く、行ってみるモチベーションが湧いてきました。

土室川流域の沢への出発点は、旧国道139号線の松姫峠からとなります。
2014年に松姫トンネルが開通する前は、標高差500m以上のここを上り下りして大月市と小菅村を行き来していました。
大月側の土室川(松姫湖)流域は立ち入り禁止なので、沢を遡行する場合は稜線上から一旦松姫湖近くまで下って、またここまで登り返してくることになります。
トンネル開通とともに、大月側からの道路は閉鎖され、小菅村からしか来ることができなくなりましたが、今も往時の市村境界の表示が残ります。
先ずは、大菩薩へと向かう牛ノ寝通り登山道を鶴寝山へと向かいます。
本日目指すシンケイタキ沢は、沢登り対象となる支流群の中で、一番松姫峠に近い場所に位置しています。
鶴寝山から一旦下って、すぐにほんの少し登り返した先にある、登山道の右折を示すこの標識が、下降する尾根の入口です。
下の写真の真ん中奥へと下っていきます。
明瞭な尾根上には造林用に使用されたと思われる踏み跡が続いており、迷わずにどんどん下っていけます。
途中に急な荒れ気味のところもありますが、それでも新潟県の登山道と遜色がないレベルの明瞭さです。
標高1100m付近では稜線が細くてデコボコとなるところも多少ありますが、左(東)側に巻き径がついています。(もちろん、稜線の一番高いところにも踏み跡がついています。)
標高が1030mくらいになると、それまでの小さな凸凹よりもぐっと高い登り返しがでてきますので、その手前のこのコルから西側へとまっすぐ下っていくことにします。
下っていく沢状の地形には明瞭な踏み跡はついておらず、足元が不安定な中を転びながらどんどん下ります。
標高150mちょっと下ると、沢の形がはっきりしてくるので、沢の中を下っていきます。
水がちょろちょろと流れはじめますが、流れを避ければ普通の運動靴でも濡れずに下っていけます。
そして、最後は広い川原に直角に交わって下降は終わります。
ここが遡行するシンケイタキ沢なはずです。
すぐ上流にはナメが見えます。
そして、下流側には砂防ダムがあります。
広い川原だと感じたのはダムが堰き止めた土砂でした。
今立っているところがシンケイタキ沢だとすると、隣の大ドケ沢を遡行するときは、この砂防ダムの脇数メートルを登らなくてはならないことになりますね。
砂防ダムの上に立つと、下にも同様の堰堤が見えます。
下の方には右岸に踏み跡らしきものがあるみたいにも見えます。
さて、お昼ごはんと沢支度を終えたので遡行開始です。
スタートからナメが断続的に続いてでてきますが、
すぐに正面に岩盤の沢を見たと思う間もなく、この8m直滝で行き止まりとなります。
これは、個人の力ではとても登れなさそうですね。
なので、さきほどの岩盤の右岸枝沢の方まで引き返して、この辺りの緩いところから右岸を巻いて行きます。
巻き径としては決して急な方ではないのですが、手がかりが乏しく、2・3歩進んでは次の木や根につかまる不安定な登りです。
あまり高巻きとならない様、低目に巻いて登り切ると、上流が見下ろせ、その先の斜面には何かが歩いたような跡が微かに見えます。
踏み跡通りに斜面を下っていくと、そのまま川原まで歩いて降りることができました。
ちょうど下の写真の青い破線のあたりを下ってきました。
滝の上もナメと小さな釜が続きます。
すぐに右岸から滝が落ちてきますが、この滝が左股で、ここが二俣となります。
直進する水量の多い方の右俣は、ガレと倒木で覆われており、なんだかパッとしません。
ただ、荒れ気味の沢を5分ほど進み、左岸から枯れたこのツインの沢が入ってくると、土砂がぐっと減って来てナメが復活します。
そして、このナメはおおむね同じ基調で、ここから400m以上高いところにある源流部めがけて、ほぼ一直線に登っていくことになります。
僅かに蛇行しながらどんどん続きます。
なんだかどれも同じ場所を撮影しているみたいですが、ダブって写っているところはほとんど無いと思います。
ナメがはじまって15分ほどで、また二俣となります。
ここが奥二俣で、水量の多い左沢へと入ります。
水があまり流れていない右沢を見送ります。
また同じような感じでナメが突き上げて行きます。
見た目は同じなのですが、それぞれ別の場所です。
どれも倒木や流れの形がそれぞれ微妙に違いますよね。
連続するナメを、一気に、ほとんどノーハンドで登るので、たちまち息が上がります。
お、珍しく急な滝が見えてきました。
これはたしか左の傾斜の緩い岩の部分を登りました。
他の場所を登った訳ではないので確かなことは言えませんが、見た目はどこも大差なさそうでした。
その上も、さらに、またまたナメ滝が続きます。
連続する滝を堪能していただけたでしょうか?
まだまだ甘いですよ、もっとあります。
水量が細くなってきたと感じるころ、正面に高さ10mほどの黒い壁が立ちはだかります。
遠目から見た感じではとても直登できそうになく、巻きルートを探しながらじわじわと近寄っていきます。
右岸よりも左岸、滝の近くは斜度が急すぎるので、少し離れたルンゼでしょうか...
いろいろ考えながら近くまで来てみると、遠くからは平たく見えた壁のところどころにガバホールドが見られます。
そして、6~7メートルくらい登れば、テラス状の段差に到達し、そこから先はぐっと斜度が緩くなっています。
休憩がてらに空身でテラスの半分くらいまでの高さを試登してみたところ、流水から離れたところは浮石だらけなものの、水で濡れてる部分はホールドもしっかりしていて、行けそうです。
というわけで、流れの右端を思い切って登ってみました。
結果、濡れていて滑ることも加味して5.8前後のグレードだと思います。
テラスで一息ついた後は、ぐるっと右に回り込んでから落ち口の流れに入りました。
傾斜の急な下側よりも、むしろ落ち口付近のユルいところの方がヌメリと浮石が増えて難度が高かったように感じましたね。
また、水量がこれ以上多くなると、安定した登路がもろに水を被るので、難度が急上昇する可能性があります。
ここまでずっと水量が少なく、なんとなくショボい印象を持っていましたが、少ない水量に助けられて無事クリアできたと感じました。
10m滝の上は、突然水量が減って枯滝に近いナメを登ります。
そして、水量はみるみる減り、稜線まで残り150mくらいで一気にツメの様相に入ります。
右上に緩やかに斜上する急な枯れ沢が左にカーブした先にあるチョックストーンまで来たら、終了は目前です。
ちなみに、このチョックストーンは(ここまで登って来れた人なら)簡単にクリアできます。
水が完全に枯れると、正面に見えてくる1326m標点あたりが急で登れなそうなので、適当なところで左岸を登ります。
私はこの写真の右手の一番傾斜の緩いとことを登りました。
木立の隙間に見えているスカイラインの数十メートル先が登山道です。
登山道に出たところで装備解除。
去り行く夏の名残の花、マルバタケフキの道を鶴寝山へと向かいます。
タツビ尾根へと向かった登山道の角で往路に戻り、鶴寝山の山頂手前で老大木に気付きます。
この大樹はかつて(今もか?)牛ノ寝通りのランドマーク的な存在で、根を傷めない目的なのか周囲にはロープが張られて木道が敷かれ、園地のように整備されていましたが、今はその残骸が残るのみです。
往路では大樹に気付かず「なんでこんなところに木道とロープの残骸があるのだろう?」と思っただけで通り過ぎてしまいました。
老木が枯れても、次世代の多くの大木へとバトンタッチされていくのでしょう。
豊作の年の秋には、大マテイ山の先までの地面が、針葉樹や栗や樫、椎などの果樹で覆われ、それらを食べつくすくらいの数の動物がやってきます。
夏休み最後の週末の一日にこの景色を眺めたのは、私と写真撮影のために鶴寝山周辺を徘徊したおじいさんの二人だけでした。
静かな山の住民の皆さんにはおじゃましました。
ツーリングやドライブで賑わう道の駅に通じる国道へと下ることにします。
●2020年8月29日(土)
松姫峠(10:10)→牛ノ寝通り登山道→鶴寝山(10:30)
→西側1350m凸より椎茸山ノ尾根(タツビ尾根)下降(10:35)
→大ドケ(1090m峰)手前コルより西へ下降(11:20)
→シンケイタキ沢出合(11:55~12:20)→シンケイタキ沢遡行
→8m直滝(巻き;12:25~12:50)→二俣(12:55)・右俣遡行
→奥二俣(13:20)・左沢遡行→10m滝(14:20)
→牛ノ寝通り登山道(15:00)→松姫峠(15:45)